タートル・トレーディング・ルールは、1980年代に著名トレーダーのリチャード・デニスおよびウィリアム・エッカートが構築したトレンドフォロー型トレーディングシステムです。実験的に未経験者へ短期間で明確なトレードルールを伝授した結果、「タートル・トレーダー」と呼ばれる彼らは飛躍的な収益を上げました。本実験はシステマティック・トレーディングの再現性を証明し、トレンドブレイクアウト戦略がテクニカル分析の柱となる契機となりました。
伝統的金融市場では、タートル・トレーディング戦略は明快なエントリー・エグジットルール、リスク管理、トレンド判別の有効性から高い評価を得てきました。例として、1990~2000年のコモディティ先物で最大年率24%、2005~2015年のハンセン指数先物で年率12%という実績があります。
暗号資産市場の拡大により、高ボラティリティ・強いトレンド特性を持つこの分野は、テクニカルトレーディング戦略の新たな舞台となりました。しかし、24時間365日取引、平均ボラティリティの高さ、センチメント主導の急変動、市場流動性の小ささなど、従来市場と根本的に異なる点があり、従来型戦略の直接適用には課題があります。
このことから、タートル・トレーディング・ルールは暗号資産市場の高ボラティリティ環境下でも有効か?という重要な論点が生じます。
近年、学術界・業界でトレンドフォロー戦略のデジタル資産適用に関する検証が進行しています。その一例がAdTurtle(2020)フレームワークであり、本稿では改良型タートル・システムであるAdTurtleをGT/USDTに適用し、2022年~2025年のヒストリカルデータでバックテストを実施しています。主な目的は以下の通りです。
従来型タートル・トレーディング・システムは、トレンドフォロー戦略の代表格です。その本質は「直近高値上抜けで買い、トレンド継続中は保有、増し玉し、トレンド転換時に手仕舞う」ことにあり、以下の主要構成要素を持ちます。
主な設定例:
ファスト型:エントリーN=20日、エグジットM=10日
エントリー時にストップロスを設定:
エントリー価格 ± 2×ATR
トレード方向へ0.5×ATR進むごとに:
上昇:ロング増し玉
ATRに基づきポジションサイズを動的に調整:
高ボラ:小サイズ
AdTurtleは、クラシックなタートル戦略を高度化したモデルです。コアとなるブレイクアウト論理を残しつつ、ストップロス設定・エントリー条件ともに堅牢性を強化しています。ATRを活用した「排他ゾーン」を設け、ストップアウト直後の再エントリーを回避し安定性を強化。動的ATRストップロスと排他ゾーンロジック導入がAdTurtleの特徴であり、主な目的は次の3点です。
主なコンセプト:
下図はAdTurtleシステムの構造を示しています:
「排他ゾーン」メカニズムを新規採用:
前回取引がストップロス終了時、すぐには再エントリーしない
ドンチアン期間の使い分け:
標準:エントリーx、エグジットx/n
従来の固定2×ATRストップロスに対し、AdTurtleはトレーリング+可変ATR幅の組み合わせでより柔軟なリスク制御を実現します。
エントリー時の初期ストップロス:
ロング:
ショート:
価格の有利進行時は:
ロング:
ショート:
可変幅ロジック:
新キャンドルごとにATRを再計算:
ボラ拡大時は自動的にストップ幅拡大、縮小時は幅を狭めて対応可能です。
この仕組みにより、
1980年代に一世を風靡したタートル・トレーディング・システムは、ドンチアン・チャネルによるブレイクアウト検知、固定ATRストップロス、ピラミッディングによるトレンド追従をコアとし、トレンドフォロー戦略の代名詞となりました。
しかし、市場構造の変化—特に高頻度取引や虚偽ブレイクアウト頻発化—により、従来型タートル戦略には大きな限界が生じています。
問題となるのは、ストップアウト後の再エントリーが早すぎて、レンジ相場で損失を連発しやすいこと。固定幅ストップは高ボラ相場で損切りが早まり、低ボラでは逆にリスク過大に。極端な値動き後にも自動的に売買を繰り返すため、ドローダウン増大や安定感低下につながります。
AdTurtleは「ブレイクアウトエントリー+ピラミッディング+リスク管理」という基本型を堅持しつつ、
を強化しています。
排他ゾーンは特に革新的で、ストップロス決済後はすぐに再エントリーせず、前回ストップロス価格±Y×ATR突破まで新規エントリーを見送ります。これがレンジ相場での損切り連鎖を防ぎます。
ストップロスはトレーリング+可変幅モデルを採用し、価格が有利方向に動けばストップも自動追従。バンド幅もATRで動的調整され、実際の値動きに即応し、短期ノイズでの早期損切りを抑えます。
強いトレンド下では従来型同様にZ×ATRごとに増し玉し、利益が出ている時のみポジションを追加。増し玉数・総リスクも厳格管理します。
ポジションサイズもリアルタイムATRで連動させ、高ボラ時はサイズ縮小、過度なリスク集中を防ぎます。
最終的に、AdTurtleは複雑な市場環境に耐えうる堅牢性・柔軟性を実現しています。従来型の完全な代替ではなく、市場状況次第の使い分けが可能。明快なトレンドが続くコモディティや株価指数では従来型、暗号資産やFX等の高ボラ・もみ合い市場ではAdTurtleの排他フィルター・動的ストップが低ドローダウン・高勝率をもたらします。
両戦略の実運用パフォーマンス検証のため、GT/USDTペアをGate取引所にて2024~2025年の1時間足データでバックテストしています。初期資金は1,000,000 USDT、レバレッジなし、総手数料0.1%/ラウンド、1約定あたりスリッページ0.05%を考慮しています。
主要パラメータは(X / Y / N / M / P)の5点セットで整理されます。
パラメータ選定はグリッドサーチ法で最適組み合わせを探索しました。
以下は3戦略で最適パラメータを適用したバックテスト結果チャートです。
従来型タートル戦略は明快なトレンド局面では高パフォーマンスですが、レンジや急転換局面ではドローダウンが大きくなりやすい傾向が見られます。AdTurtleは排他ゾーンと動的ストップロスで多くの偽シグナルを排除し、総合リターン・シャープレシオ・最大ドローダウンで従来型を上回ります。特に短期サイクル型の安定性が際立ちました。グリッドサーチ最適化後、最高のパラメータでは年率62.71%、最大ドローダウン15%未満を達成しています。
タートル・トレーディングは構造が明快かつ論理が厳格なトレンドフォローモデルとして独自の地位を確立しています。その体系化されたトレンド判別・リスク管理の枠組みは暗号資産市場でも依然として大きな有効性を示していますが、暗号資産特有のボラティリティや取引仕様、投資家層の違いもあり、適用には構造的な改良が不可欠です。AdTurtle戦略は排他ゾーン・動的ストップ・可変型ピラミッド閾値の導入により、高頻度でもみ合いの多い市場で生存性とリターンの安定性を大幅に向上させています。
今後はさらなるパラメータ検証やレバレッジ活用でリターン向上も期待できます。加えて、オンチェーンデータ(資金移動・ポジション変化)、マクロセンチメント指標(Fear and Greed Indexなど)、機械学習シグナルとの統合を進めることで、暗号資産市場のトレンドフォロー戦略の知能化がさらに促進されるでしょう。
Gate Researchは、ブロックチェーン・暗号資産の総合リサーチプラットフォームとして、テクニカル分析・市場分析・業界調査・トレンド予測・マクロ経済政策分析など高品質な深掘りコンテンツを幅広く提供しています。
免責事項
暗号資産市場への投資は高いリスクを伴います。投資判断に際し、ご自身で十分な調査・理解を行った上でご判断ください。Gateは本内容に基づく損失・損害について一切責任を負いません。